2019年J1第13節 横浜F・マリノス対ジュビロ磐田を因動分解!

今回で5回目のお届けとなります因動分解シリーズ。やればやるほど、サッカー選手ってすごいなーという気にさせられます。
それでは、 今週も「ゴールシーンでは一体何が起こっていたのか」を「選手のアクション」から見てみたいと思います。

今回取り上げるのは、横浜F・マリノス対ジュビロ磐田戦です。大量得点での勝利と大量失点での敗戦を繰り返す横浜とはいえ直近の状態を見れば、磐田は分が悪い相手になるであろうことが予想されました。結果として、4-0での横浜の勝利となり、圧倒的な攻撃力を見せつけられる結果となりました。
その中でも、今回取り上げるのは横浜F・マリノスの4点目のシーンです。

横浜F・マリノス対ジュビロ磐田、横浜4点目のシーン

簡単に説明しますと、左サイドの空いたスペースにマルコス・ジュニオールからパスが出て、そこでボールを受けた扇原からのクロスをゴール前でエジガル・ジュニオが決めたというシーンです。
因動分解してアクションマップで表すと以下のようになりました。

横浜F・マリノスvsジュビロ磐田 4ー0 by Yashin KASHIMA

すごいのではなく、横浜の攻撃の基本パターン

最近あまり見られなくなりましたが、開幕直後のマリノスの攻撃パターンはこのシーンの形だったかと思います。裏への抜け出し、中央でのゴール前衛の侵入。一度この形を復習してみましょう。

裏を取るまでの動き

このシーンのスタートはハイライトで言うところの1:47からのシーンです。厳密にはもう少し前からアクションマップは記載しております。このハイライトはマップ上の①の少し後あたりから始まります。
ここは、試合時間的には73:24なのですが、この時点ですでにディフェンスラインは不揃いになっていますね。ですが、ハイライト動画の切り替わった瞬間にボールを持っていたティーラトンへパスが畠中からだされた瞬間には、5バックのラインはきれいに揃っていました。それはわずか2秒前です。

このシーンで、まずティーラトンはパスを出す前に少しだけボールを保持し、マルコスが近づいてくるのを待ちます。ティーラトンがボールを保持したことで、それのチェックに右CBの高橋がチェックに出ます。ティーラトンは左SBですから、定石ではジュビロは右WBの松本が対応するべきなのでしょうが、このとき松本は更に外にいるボランチの扇原が位置していたため、行くことができません。そもそも、SBのティーラトンが左CHの位置にいることがジュビロにとっては想定外で、マリノスにとっては狙いなのです。結果として、マリノスの目論見通り、右CBの高橋が釣り出される形になりました。ここがアクションマップでの①のアクションです。

その後、ティーラトンはマルコスに対してゆっくりとしたボールを出し、マルコスもゆっくりとボールを受け取ります
ここに食いついてくるのが、CB中央の大井です。ゆっくりしたボールであったからこそチェックに行くことでボールを奪うことができると考えたのかもしれませんし、もしかしたらボールを受けたマルコスがドリブルで抜けようとするのを警戒したのかもしれません。どちらのせよ、マルコスがゆっくりとボールを持つことによって、大井はマルコスのチェックをするためラインを外れることになりました。ここが②のアクションです。
この①②のアクションにより、5バックの内3人が右サイドに寄せられ、前に釣り出されてしまいました。

さて、このとき別の場所でもラインを崩すためのアクションが行われています。それが③のアクションです。この動きもシンプルです。エジガルがゆっくりとペナルティーエリアに近づいていくことでそのマークに付いていた新里が押し下げられてしまいます。
そうして、この3人のアクション+外に張った扇原によってラインは大きく崩され、最前に出ていた大井から最後方に位置した新里まで推定3メートル以上のギャップが生まれていました。

クロス

それだけのギャップがあれば、たやすく裏を取ることができるのは自明です。
そうすると後はクロスとそれに合わせる枚数の勝負です。
マリノスはペナルティーエリアの中に3人が侵入してきました。それも、センターにエジガル、ニアに遅れて遠藤、ファーに遅れて仲川というように入って来方も三者三様でした。それに対してジュビロディフェンス陣はどれにもしっかりとマークにつけていませんでした。特に遠藤に対応していた山田は完全に後手を踏み、後ろから追いかけるしかありませんでした。
しかし、ゴールを決めたのはフリーな遠藤ではありませんでした。センターに走り込んでいたエジガルです。エジガルは一度ニアに合わせに行く素振りを見せたあとに、中央に切り返しフリーでシュートしました。

さてここで疑問があります。扇原とエジガルの間に立ちパスコースを切っていた新里はなぜ扇原に逆をつかれパスを通されてしまったのでしょうか?
可能性は3つあると思います。

①エジガルのフェイクの動きに引っかかった
②フリーの遠藤が走り込んでくるのが見えた
③扇原の視線からパスコースを読んだ

①に関しては、そもそもこの動きをエジガルの対応をしていた新里は見れていたのか疑問があります。エジガルは完全に背後におり、目の前の扇原に集中しないといけない状況、悪い意味でフェイクに引っかかりようがないのではないかと思えます。もちろん横目で見ていた可能性はありますが。
②に関しては、新里の横に遠藤が走り込んできていますので、新里の視界に入っていた可能性は高いかもしれません。
最後に、③ですが、扇原はボールをトラップした際にゴール前の状況を確認します。その時、フェイクの動きをしていたエジガルと走り込んできていた遠藤を見ます。その方向が新里から見て左だったため、新里は左側、つまりマイナスにパスが出ると予測したのではないでしょうか。しかし、エジガルが動き直したことにより右側へパスが出て逆をつかれたのではないかと考えられます。
個人的には③(+②)が理由なんではないかなと考えております。

そもそも、クロスに対しての選択肢が多いのがマリノスの攻撃の特徴です。
毎試合のウォーミングアップで、クロスに対して2枚飛び込んでくる練習を行っているところを見ることができます。

私自身がマリノスをよく見ているため約束事について理解をしていますが、当然ながら他のチームに追いても約束事があるのではないでしょうか。あらためて、各チームの約束事を探してみるのも面白いかもしれませんね。

今回取り上げたのは、4点目のシーンでしたが、1,2点目のシーンも個人的に語りたいことがあります。
どちらもファーへのシュートだったのは覚えているでしょうか?
実はこの日の試合前ウォーミングアップ中のシュート練習で、全員執拗にファーへのシュートの練習をしていました。ほぼファーへのシュートしか打っていないくらいです。
何らかのスカウティングがあったのかもしれませんが、この試合ではファーへのシュートが有効であると試合前からわかっていたのでしょう。結果としてそこから2得点を上げ、試合を優位に進めることができました。
個人的にはどんなスカウティングが出ていたのか気になるところです。