2019年J1第11節 ベガルタ仙台対サンフレッチェ広島を因動分解!
ゴールデンウイークもあり、少し期間が空いてしまいましたが、続けていきたいと思います。第4弾です。
今週も「ゴールシーンでは一体何が起こっていたのか」を「選手のアクション」から見てみたいと思います。
今回取り上げたいのは、ベガルタ仙台対サンフレッチェ広島戦です。連敗中とはいえ順位で上回る広島が優位かと思われましたが、終了間近の2得点でなんとなんとの逆転勝ちを仙台が収めたという試合でした。
中でも今回注目するのが、ベガルタ仙台の1点目のシーンです。
ベガルタ仙台対サンフレッチェ広島、仙台の1点目のシーン
簡単に説明しますと、サイドに開いた蜂須賀から、裏へ走った兵藤にパスが出てサイドをえぐり、そこからマイナスのクロス、ハモン・ロペスが合わせてゴールと言うシーンです。
因動分解してアクションマップで表すと以下のようになりました。
ベガルタ仙台vsサンフレッチェ広島 2-1 by Yashin KASHIMA
相手を思うがままに動かす兵藤の上下動
兵藤の裏への抜け出しはやはり素晴らしいです。横浜時代もそうでしたが、ここぞというところで本当に頼りになる男です。今回は、その裏への抜け出しをするに至るまでに、兵藤は何をしていたかを取り上げたいと思います。
1つ目「DFをラインに押し込める動き」
この一連の流れで、兵藤がまず最初にしたことは、アクションマップ上で①とマーキングした「V兵藤、S柏と対面しつつ、右サイドをゆっくりと上がる」というアクションです。
ハイライト動画で言うところの1:48から1:51くらいの場面です。画面奥やや左側にいるベガルタの選手が兵藤です。
ここでは、兵藤はあまりスピードを上げずランニング(にも満たないかもしれない)しています。それに正対していた広島の柏は距離をとって対応したいため、少しずつ下がっていきます。しかし、この柏が下がっていく動きはおそらく想定されていた動きで、柏は最終ラインに吸収され5バックの左の位置に収まります。ここまでは広島も想定の範囲内、全く問題が起こるような状況ではなかったと思われます。なぜなら、この時点で5バックのライン(もっと言えば5-4-1のブロック)が綺麗に形成されていたのです。
2つ目「マークの受け渡しをさせる動き」
柏をディフェンスラインに押し戻したあと、兵藤は松下からのパスを受けるために反転して下がる動きをします。アクションマップ上では、②とマーキングした「V兵藤、下がってボールを受けに行く」というアクションです。
ハイライト動画で言うところの1:51から1:53くらいの場面です。
兵藤が急反転したため、体重が後ろに乗っていた柏はすぐに反応することができませんでした。そのため、柏はそれ以上兵藤を追うことをやめました。「すぐに反応できなかったこと」、「兵藤が下がった先には野津田がいたこと」、「自分は最終ラインにポジショニングしており、それは悪い状況ではないこと」などなど、状況が重なったための判断だったことでしょう。全く間違っていないと思います。
これによって、兵藤のマークが野津田に受け渡されることになったのですが、野津田は野津田でもう一つ外にいる蜂須賀が気になっている状況でした。蜂須賀にパスが出る可能性と兵藤にパスが出される可能性、その両方が野津田の頭の中にあったのでしょう、野津田は兵藤にしっかり寄せることができませんでした。
この時点でマークの受け渡しによる若干の混乱が生じ始めました。
そんな中、兵藤がパスの出し手である松下にどんどん近づいていきます。野津田はさすがに無視ができなくなり、松下がパスを出すのは兵藤だろうと判断しました。そのため、松下がパスを出す瞬間に兵藤にプレスを仕掛けます。しかし残念ながら、パスは期待を裏切りサイドの蜂須賀へと送られることになりました。当然、ヤマを張って動いた野津田は逆を取られ、パスはフリーの蜂須賀へと収まります。この蜂須賀をマークすべきなのは当の野津田だったのです。
結果としてパスを受けることはありませんでしたが、兵藤の動きはサイドの蜂須賀へのパスコースとフリーの状況を作ることになりました。
広島にとってはもう一つ良くないことに、このとき野津田は兵藤と横並びの位置にいたのです。これが最後に響いてきます。
このあたりから、広島は後手を踏み始めます。
さて、蜂須賀にノーマークでボールを受けさせてしまった広島守備陣はどうしたでしょうか?
先程、最終ラインに収まった柏が蜂須賀の対応に向かうことになります。しかし、兵藤に最終ラインまで押し込められていたため、だいぶ遅れてです。
当然ながら、プレスは間に合わず蜂須賀に落ち着いて判断し、パスを出す時間を与えてしまいました。ちなみに、このとき蜂須賀は若干コントロールを誤っており、なおかつボールを受けるまで中の様子を確認していなかった可能性も見えます。つまり、しっかりした距離感でプレッシャーを掛けることができれば、かなりの確率でパスを阻止することができたように思えます。
しかし、仮定はどうあれ、結果としてパスは出されることになりました。しかも、柏が上がった分のスペースへと。
3つ目「とどめを刺す動き」
さて、兵藤の動きに話を戻しましょう。
松下からのボールが蜂須賀に送られた後、兵藤は三度動き始めます。アクションマップでは③「V兵藤、反転しS野津田の裏のスペースへスプリント」というところです。
ハイライト動画で言うところの1:53から1:57くらい、もしくは2:06から2:09の場面です。前者は途中蜂須賀のアップが入ってしまうので状況が見づらく、後者は動きはじめの部分が若干切れているので、合わせてみてもらうと良いと思います。
兵藤は、サイドにボールが収まったと見るや、一目散に空いたスペースへ走り出します。もちろんこのスペースは先程ふれた柏が上がったために生まれたスペースです。
兵藤といえば、マークに付いている野津田のことを忘れてはいけませんね。先にチラッと書いたように、このとき野津田は、兵藤と横並びのポジションにいます。外にいる蜂須賀を見るために兵藤に背中を向けた状態でです。イカンですね。仕方がないとは思いますが。 もし、野津田のポジションが兵藤の前方(仙台から見て)にいて正対していた場合、対応するための選択肢はもっと多かったことでしょう 。
兵藤は自分に注意が向いていないことを確認しつつ、猛スピードでスプリントし野津田を引き剥がします。
その途中、蜂須賀に自分へパスを出すように大きく力強く手を降って指示を出しながらです。今まで、浮いた動きをしていたのにいきなり本気モードです。それに気が付き蜂須賀は兵藤のランに合わせてパスを出します。野津田はパスが出されたとき初めて、兵藤に剥がされていたことに気がついた様子でした。
そこから見事な折返しがハモン・ロペスへ送られゴールとなりました。
広島側から見たタラレバ
もし、柏が兵藤についていったとしたら
兵藤には柏のマーク、蜂須賀へのパスコースは野津田がチェックとなったでしょう。
仮に兵藤へパスが出た場合、次のパスの選択肢は蜂須賀か長沢になり、蜂須賀には野津田のマークで対応、長沢は3CBで対応可能となった可能性が高いでしょう。
あるいは、蜂須賀へのパスが出た場合、次の選択肢は兵藤へのパスかクロスとなり、兵藤には正対した状態の柏がマークし対応でき、クロスへは5人(大迫・野上・吉野・荒木・サロモンソン)対3人(ロペス・長沢・石原)の数的優位で対応ができる。
タラレバで語っても仕方がない上、その他の選択肢や、スーパープレイが起こる可能性もあるので意味がないですが、考えてみると後手を踏んだな感があることに気付かされますね。
あと、状況的に野津田が散々なことになっていますが、野津田が悪いのではなく、野津田に兵藤のマークをせざるを得ない状況を作ってしまったのが悪いと思います。
なぜそこにパスが出せる…?
もう一つだけ、スゴイと思ったことを書かせてください。
アクションマップで④と表記したのですが、最後の兵藤のクロスの部分です。
あれ、なんでマイナスにクロスしたんですかね?
兵藤が最後にゴール前の状況を確認したとき、ハモン・ロペスはまだ前に向かって移動してるんですよね。
その後は、蹴った瞬間も中を見ていなくて、バランス崩して倒れかけているところで初めて中を見るんです。
なんでハモン・ロペスがあの位置にいることを知っていたんでしょう…?
映像からだと全くわからないのです…
しかたないので勝手に愚行すると
①ハモン・ロペスが声で呼び込んだ
基本これなんでしょうが、集音マイクに載ってなくて確証がないです。ゴール裏に集音マイクがあるので、声出してたら聞こえる気がするのですが…
②そういう取り決めがある
抉ったらマイナスにクロスを上げる。だからそこに誰かポジショニングする。みたいなやつです。それだったら、まあこういう感じの得点も起こりますよね。(手前味噌で恐縮ですが、マリノスなんかはこれですね。天野とかゴール前全く見ずにクロス上げますから)
③偶然
あるのかなーあるかなーあるー?なくはないだろうけど、兵藤は確信を持ってパスしてた感じだからなー
ってところでしょうか?
とっても気になりますが、真相を知る手段はないという…
今回は、ベテランの見せた経験の差とも言えるシーンを取り上げてみました。走るだけで相手をコントロールするという恐ろしいシーンでした。
サッカーは細かいところを見れば見るほど面白くなっていきます。みなさんもぜひ選手の細かなアクションに注目してみませんか?
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